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2025年8月、日本の金融庁が暗号資産(仮想通貨)に関する税制改正要望を公表した。

これは、2026年度税制改正に向けた要望事項の一つとしてまとめられたもので、長年指摘されてきた「高すぎる税率」「損失繰越が認められない」などの課題に対し、制度の抜本的な見直しを求める内容となっている。

今回の要望は、個人投資家の税負担を軽減し、暗号資産分野の国内市場育成・海外流出の抑制を目的とするものだ。

1.現状の仮想通貨税制

現行制度では、個人が仮想通貨を売却または他の通貨・商品と交換して得た利益は、「雑所得」として総合課税の対象となる。

そのため、給与所得など他の所得と合算され、所得税・住民税合わせて最大55%超の税率が課されることになる。

また、仮想通貨取引で損失が発生しても、株式やFXのように翌年以降へ損失を繰り越すことができない。

さらに、暗号資産同士の交換取引(例:ビットコイン→イーサリアム)でも課税対象となるなど、実務上の煩雑さや課税タイミングの不明確さが問題視されていた。

こうした仕組みは、海外と比較しても日本の投資環境を不利にしているとの指摘が強く、国内外の事業者から制度改正を求める声が高まっていた。

2.税制改正要望の内容

金融庁が示した2025年度税制改正要望の主なポイントは以下のとおりである。

(1)申告分離課税の導入

現行の「総合課税」から、株式やFX取引と同様の申告分離課税(定率課税)へ変更

(2)税率は一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%) とする。

(3)損失繰越控除の導入

暗号資産取引で生じた損失を、翌年以降3年間繰り越して相殺できる制度。

これにより、投資活動の継続性・公平性が確保されると期待されている。

(4)課税タイミングの見直し

現在は暗号資産同士の交換時にも課税が発生するが、要望では「法定通貨に換金した時点で課税」とするなど、より実務的な仕組みへの簡素化が検討されている。

(5)相続・譲渡時の評価方法の整理

相続や贈与で暗号資産を取得した場合の評価方法を明確化し、上場有価証券と同様の扱いとすること。

4.今後の動向

今回の内容はあくまで「税制改正要望」段階であり、実際の法改正・施行には、①政府税制調査会による年末の審議、②与党税制改正大綱(通常12月公表)、③翌年の国会審議を経る必要がある。

そのため、改正が実際に実施される場合でも、最短で2026年以降(令和8年度税制改正)に施行される見込みである。

5.適用範囲

また、この税制は日本の税法上の「居住者」にのみ適用される。

居住者かどうかは、所得税法第2条に基づき、「国内に住所を有するか、又は現在まで1年以上居所を有する個人」とされている。

6.まとめ

2025年8月の金融庁要望は、日本の暗号資産課税制度を国際水準に近づけるための大きな一歩といえる。

もし要望が実現すれば、税率の引き下げ・損失繰越制度の導入・課税の簡素化が進み、個人投資家や国内事業者にとって大幅な負担軽減が見込まれる。

ただし、正式な改正まではまだ時間を要するため、投資家は今後の国会審議・政府方針を注視しつつ、現行制度下での申告準備を怠らないことが重要である。

 

 

南智士 (Satoshi Minami)

ヴィラ法律事務所

 

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2025年11月14日