欧州単一市場は、企業及び個人にとって商的・経済的チャンスの大きな枠組みを形成する。それは日に日に大きな割合を獲得しており、国内企業は国境を超えた商機を探すようになっている。例えば、クロスボーダーのM&Aを通じて他の加盟国に事業所を持つ企業を吸収することで、取引のボリュームを拡大する可能性を探るなどである。
EU加盟国は国ごとに商業登記制度を有しており、登記により国内の会社の主たる情報や変更履歴を確認することができるようになっている。この商業登記制度は、国内レベルの観点では、国内市場の情報、保護、そして法的安全のために非常に有用なツールである。他方、EUレベルに目を向けると、言語の問題やEU内のあらゆる国で設立された会社について情報を収集するための手続きの困難が問題視されている。クロスボーダー取引が活発化する状況において、企業に関する情報へのアクセスの要求へ対応するため、EUの安全及び公正な場所の構築に貢献するために、商業登記の統一化と連携が必要とされていた。
EU加盟国内の設立済みの会社に関する情報を収集するためのEUのインフォメーション・システム
2012年欧州指令第17号はEU域内の商業登記簿間の相互接続システムの構築を定めた。これは「Business Registers Interconnection System」(略称「BRIS」)として知られている。また、欧州委員会施行規則2015年6月8日第884号により、上記登記簿間相互接続システムのための仕様及び技術的な手続きが定められた。
BRISは現在試用運転期間であり、2017年6月に本格的な稼働が予定されている。
当該システムには、主な2つの機能が備えられるとされる。
(1) EU加盟国の商業登記に登記がされている企業の情報へのEU域内からのアクセスを与える。
(2) EUのすべての商業登記簿間の電磁的コミュニケーションを可能にする。これにより在外支店や在外子会社の情報交換が可能となる。
個人にとっての利点とマーケットにとっての利点
- M&Aやジョイントベンチャー、商的取引の対象となるような企業を探し始める際に、EU域内企業の特徴や状況の調査が可能となる。
- 各国の捜査当局が、加盟国に登記がされている情報をやり取りする情報交換のための手段ともなる。
- 潜在的な合併または加盟国間における企業買収といった場面において、企業グループの観察及び分析が可能となる。
- 株主の利益は保護されるが、第三者、プロバイダー、債権者、顧客等の利益も保護される。
- 市場の透明性に寄与し、クロスボーダー取引を容易にする。
- 国内の登記義務を怠っているような企業を市場から淘汰することにつながる。
上記を補足するものとして、European Business Register(略称EBR)というものが存在する。これは、ヨーロッパの商業登記簿間で情報交換をする共同ネットワークで構成されている。EBRは自国の商業登記所において登録をすれば個人・法人のいずれも利用でき、 EBRを構成する加盟国内に登記がされた企業に関する情報へ国境を超えてアクセスすることが可能である。
3つ目のクロスボーダーの企業情報ソースは、欧州単一市場における商流の安全に非常に有用なものとなるであろう、倒産登録である。現時点においても倒産登録は存在し、8つの加盟国(オーストリア、ドイツ、チェコ、エストニア、ラトビア、オランダ、ルーマニア及びスロベニア)における倒産手続きにかかる情報が取得できるデータベースとなっている。倒産登録の有用性は、地理的な限界により、未だ相対的である。
2015年欧州規則第848号は、加盟国に国内の倒産登録(Insolvency Register)の設置を義務付けた。しかしながら、上述の企業情報の場合でみたとおり、これだけでは不十分であろう。したがって、広範かつ有効な適用をするためには、EUのポータルであるThe European e-Justice Portalを、システム内にあるすべての情報へのアクセスポイントとして、これを通じた各国登記官の情報交換が必要だろう。
スペインや他の加盟国は現在国内データベースを欧州のシステムに統合するための作業を行っており、欧州規則に定めるところによれば、当該作業は2018年6月26日までに完了しなければならない。
ヴィラ・エドアルド (Eduardo Vilá)
ヴィラ法律事務所
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2017年3月10日