本件賃借人は、2020年6月25日付にてバレンシア市第一審裁判所第一法廷にて、以下の予防措置に関する判決を受けた。

-事業用賃貸借契約で合意した最低月額賃料の50%の支払いを2020年6月分払いから確定判決が出るまでは猶予すること。

– 新しい観光シーズンが始まる2021年3月以降に発生する家賃については、ホテル収容人数や、ヨーロッパ各国からの国境へのアクセスに関する現行の法的規制が継続する場合に限り、支払いを猶予すること。

当該予防措置は、支払い延期要請当事者が30日以内に50万ユーロの保証金を納めるという条件付きであった。

本件賃貸人は2つの根拠により当該措置に異議を申立てた。

  • 第1に、「fumus boni iuris」(善良な法の外観)の欠如。契約書には固定賃料と変動賃料が設定されており、その理由はまさにリスクを軽減するためであったためと理解できる。
  • 第2に、比例性の欠如。当該措置は、その時点にホテルの収容人数や外国人観光客のスペイン入国制限措置が講じられているかどうかに関係なく、少なくとも2021年3月まで継続することとなっている。

I.- 当該裁判所は、第一の根拠については、以下の見解を示した。

1) 2012年12月27日付最高裁判所判決第807/2012号以降の判例と、事情変更の原則に関する法理を検証し、特に2013年1月17日付最高裁判所判決を挙げ、「国際的な文書(UNIDROIT国際商事契約原則の第6条2項2、欧州契約法原則の第6条第111項)や国内的な文書(契約と債権の近代化に関するスペイン民法一般法典化委員会作成草案第1条第213項)等に規制が組み込まれる傾向が明白となってきていると述べている。

2) 裁判所は、以前の判決及び控訴審で言及されたケースは、経済状況や市場の変動に由来する状況、契約上の通常のリスクの範囲内で予測可能な法改正の結果発生する状況について言及しており、これらは本件で問題となっているケースとは異なる前提事実、つまりCOVID-19パンデミックによって引き起こされたような「例外的で、予測不可能で、非常に深刻な(付け加えれば壊滅的な)状況」については決して言及していないと理解した。契約目的と提供サービスのバランスを考慮すると、通常または予測可能な契約上のリスクとは異なる、より深刻な状況を想定することは困難であることから、当初から、提出された請求は、暫定的および状況的判断をする上で有利な要素として考慮するに値すると考えた。

3) 契約上のリスクは収益に基づく変動賃料条項が導入されていたことにより既に考慮されており、賃料の最低額は固定されていたという被告の主張には、当該条項によって健康危機の深刻な影響回避はできず、そもそも当該条項はパンデミックの壊滅的な影響回避のためではなく、むしろ市場の変動や周期的な危機の影響を緩和するための措置であり、また、1年間の比例賃料を設定することを目的としていることを理由に、これに同意しないとした。

4) 事情変更の原則の有用性は、立法者が2020年4月21日付の勅令第15/2020号及び2020年12月22日付の勅令第35/2020号にて、中小企業を対象にした支払い猶予措置のような類似措置を規定している点で、既に判例の領域を超えているとし、裁判所を通じて同様の措置を要求し、契約の変更を確認することを妨げないと強調した。

5) 控訴人が提示した判決(2019年1月15日付スペイン最高裁判決第19/2019号)は、経済危機による企業の売上高の減少を検証しており、長期契約において予見されるべき、または予見可能な経済システムに固有のリスクであるため、類似ケースを想定していないため、適用できないとした。

II.- 当該裁判所は、第2の根拠に関しては以下の見解を示した。

1) 2020年10月に新たな警戒事態宣言が発令され、2021年5月9日まで延長されたことにより、国内での人の自由移動制限措置が多く講じられ、特に多くの自治区でホテルや飲食業の営業時間が制限され、夜間外出禁止令が出された後の状況を分析している。重要なのは、特定日に特定の規制の施行がなされたかではなく、状況の継続があるかどうかであり、それによって「観光客の需要に異常な影響をもたらすことにより、サービス提供のバランスを崩し、契約上の互換性を阻害する可能性がある」かどうかであると強調している。

2) 観光事業分野における需要の減少は、当初の予見期間より長期間にわたっていることは周知の事実である。特に、感染、新たな変異種の発生に対する公衆の恐怖心、移動制限、観光客に対する移動範囲の制限や管理等の状況は持続しており、観光ビジネスにとって極めて不利な状況であると考えられる。

したがって、控訴裁判所は、警戒事態宣言の終了イコールパンデミックの終息を意味しないことに留意し、第一審判決で講じられた措置が不均衡であるとはしないとの見解を示した。同様に、予防措置はあくまで偶発的なものであり、パンデミックの動向に進展が見られた場合には変更が可能であることにも言及した。

結論として、裁判所は控訴を棄却、第一審判決を支持し、控訴人に訴訟費用の支払い命じた。

 

 

ボスク・ミレイア (Mireia Bosch)

ヴィラ法律事務所

 

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2021年4月1日