事情変更の原則は、契約当事者の双方が当初全く予期していなかった状況に面することにより、当事者の一方の契約履行が絶対的に不可能、または負担が多く非常に困難な場合に、契約当事者間の利益のバランスを再構築するためのメカニズムとして、判例法によって発展した法理である。昨年以来スペインでは、産業・商業活動目的の賃貸借不動産の使用に関して、Covid-19パンデミック感染症の拡大を防ぐために当局が課した禁止、停止、制限措置に発端し、上述のような状況が多く発生することとなった。
事情変更の原則については、州レベルでは「賃貸事業所で実行される経済活動支援のための緊急措置」に関する2020年10月20日付カタルーニャ州法令第34/2020号、国レベルでは「ホテル、観光、飲食、小売業支援を目的とした税務上の緊急措置」に関する2020年12月22日付のスペイン勅令法第35/2020号までは、法規制が存在しなかった。
ただし、当該法令は、当局が発令した禁止もしくは制限期間に限定した措置を規定しており、いかなる場合においても、当事者間の合意がない場合に適用されるとしていた。更には、賃借人が賃貸人に対しスペイン勅令法第35/2020号に基づく賃料減額または延期の要求をする場合は、2021年1月31日を期限とするとされていた。
いずれにせよ前述の法令は、賃貸借契約に関するその他の請求権を行使するために司法支援に頼る契約当事者の権利とも両立しており、当該分野訴訟は、現在大きな関心事の一つである。
具体的には、ホテル業関連として、以下の訴訟案件が提起されている。
・2021年2月10日付バレンシア県第8法廷判決第43/2021号は、バレアレス諸島にあるホテル事業につき、2020年6月25日付バレンシア市第1審裁判所第1法廷判決は正当化された事情変更の原則条項の適用を支持した。そして、2020年6月以降、本件の判決確定まで予防措置として講じられた最低賃料の50%の支払い猶予合意を、新規ホテルシーズン開始時期(2021年3月)にホテル収容人数制限や欧州からのスペイン入国制限措置が継続している場合には、当該猶予を維持することを決定した。当該判決の検証については、当事務所4月1日付の記事「2021年2月10日付バレンシア県第8法廷判決第 43/2021号 事情変更の原則条項(cláusula rebus sic stantibus)案件」を参照されたい。
・2021年2月22日付バルセロナ第一審裁判所第26法廷判決第70/2021号(Hotel Sir Victor de Barcelona案件)においては、当該ホテルがバルセロナへの出張目的の旅行客は引き続き収容は可能であることをから、事業ターゲットを出張者に変更し、さらにはレストラン営業も可能であることを理由に、要求された予防措置を部分的にのみ容認した。更には、原告は国際的な事業グループの一員であり、あるホテルの利益の損失を、グループ内で深刻な資金流動性問題に陥ることなく、高収益を生み出す他の施設で補完することが可能であることを確認している。したがって、原告であるホテル事業体が要求した賃料減額には同意せず、2020年3月の警戒自体宣言発令日から本訴訟の判決確定を条件に、判決日から10ヶ月が経過するまで、50%の支払義務を停止するとした。
・2021年3月8日付バルセロナ第一審裁判所第29号法廷判決第78/2021号では、訴訟提起から判決確定、あるいは2021年12月まで、賃料の50%を減額するか、あるいは支払いを猶予するというホテル会社が要求した予防措置を却下した。裁判所は、本件賃貸借契約が長期契約であり、5年目以降6ヶ月の事前予告にて解約する権限が付与され、収益に応じた変動賃料が設定されていることから、収入減少のリスクは賃借人が負担すると判断できる。故に、事情変更の原則を考慮する上での検証根拠とならないとの判断を示した。同様に、原告が不動産賃貸を継続しており、被告がバルセロナの中心部に位置する建物の所有者であることから、原告の主張が認められた場合、最終的な確定判決が効力を持たないという手続き上の不履行の危険性はないとした。
ヴィジャビセンシオ・カルラ (Carla Villavicencio)
ヴィラ法律事務所
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2021年4月16日