I.- 序文

スペイン下院議会にて可決され、去る9月28日付官報で公示された法第14/2014号「起業家及び国際化支援法」では、「起業家の有限責任」(以下「ERL」という。)という新しい法的概念が導入された。これにより、当該概念に該当する個人起業家は、ビジネスや専門的な活動に起因する債務について、責任を制限することが可能となる。

II.- 有限責任の効力

起業家の責任は、当該起業家の有する不動産価値が30万ユーロ以下(資産譲渡及び法律行為に関する税の課税標準に従った価値により判断。)であり、かつ、ビジネスや専門的な活動に影響を与えない日常的な住居には及ばないこととされた。なお、人口100万人以上の都市所在の住居の場合、責任の及ばない不動産価値の基準は45万ユーロ以下となる。

一方で、当該有限責任には、以下2つの重要な例外が存在する。

  1. 第三者に対しての 義務の履行における重大な違反行為や詐欺行為を行ない、それに対して有罪判決等を受けた場合には、責任を限定する本法律の規定による恩恵を受けることができない。
  2. 日常的な住居の差し押さえのための一定の要件が成立している場合であっても、責任が限定される起業家が有する公的債務については、当該有限責任の条項は適用されない。

III.- 要件

前述の有限責任を享受するためには、以下の要件を満たさなければならない。

  1. 商業登記所にて、自身の日常的な住居にかかる情報を提示し、 ERLとしての登録を行う。
  2. 起業活動を行うにあたって必要となる全ての書類(請求書、手紙等)に「有限責任である起業家」または「ERL」と記載する。
  3. 不動産登記所にて日常的な住居が会社の債務の担保の対象にならないことを登録する。
  4. 一人株主の有限責任会社に関する規定に従い、年次会計書類の作成及び承認、ならびに当該書類の商業登記所への提出を行う。当該書類を事業年度終了日から7ヶ月以内に提出しない場合、当該起業家は有限責任の享受を受けることができなくなる。

IV.- 結論

有限責任に関する一般的概念は民法第1.911に定める債務に関する普遍的責任の原則を全般的に限定するものではあるものの、実務においては、この有限責任はさほど影響しないと考えられる。なぜなら、事業活動を行うための信用を受ける目的で既に担保とされている日常的な住居については、本法律の適用がされないからである。さらに、その行使については詳細な要件が定められているものの、経済状況が悪化すると一番問題となりうる社会保険や税務関連等の公的債務については、有限責任が適用されない。概ね起業家はこれら公的債務を有していることが多い。

なお、当該法には 有限会社新規設立(la Sociedad Limitada de Formación Sucesiva)に関する条項も含まれており、少額の資本金で起業を行なうことを希望する起業家にとっては興味深い選択肢のひとつとなるだろう。

 

 

ヴィラ法律事務所

 

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2013年10月14日