1月に提出された2012年勅令法第2号によって承認された雇用制度改革は、スペインの雇用制度をより柔軟なものとし、かつ、雇用を促進させるための総合的な対策を制定している。また、一定程度において、スペインの労働法制は他のEU諸国における一般的な傾向により近づいてきているといえる。以下、スペイン企業、特に中小企業 に大きなインパクトを与えうる改革の内容を詳述する。

II.-  改革内容

A) 実習契約:

• 16歳以上25歳未満の労働者に適用可能

• 契約期間は最低1年間、最長で3年間

• トレーニングは実務と両立可能であるが、トレーニングの割合は初年度については実務の25%、2年目及び3年目については15%を下回らないものとする。

• 給与は、適用される労働協約に従い、実務に従事した時間に応じた額とする。

• 実習期間が満了した場合、労働者は同一の企業と本契約を結ぶことはできないが、他のセクターの他の企業とであれば可能。

• 新しい実習契約制度のために会社が支払う社会保障料について奨励金が制定され、初年度及びその延長期間中、当該実習契約者について100%の社会保障料の奨励金が受けられる。

• 実習契約から無期雇用契約への転換を行なった場合、3年間、社会保障料が年1,500ユーロ(女性の場合は年1,800ユーロ)減額される。

B) 無期雇用契約の振興

1) 雇用主への契約支援: 従業員が50名未満の企業が無期雇用かつフルタイムの契約を結ぶ場合、下記の金銭的インセンティブを受領する。

a) 被雇用者が30歳未満である場合、年3,000ユーロの税控除

b) 加えて、当該被雇用者がそれまで失業者であった場合、 雇用契約書に署名した時点において未払いの失業手当の50%相当額の税控除を受ける権利が、最長で 12ヶ月間会社に与えられる。これらはすべて、規則が定めるところによる。

c) 16歳から30歳の者と契約を結ぶ場合、3年間、雇用主に社会保障料の奨励金(初年度は年1,000ユーロ、2年目は年1,100ユーロ、3年目は年1,200ユーロの減額)を受ける権利が与えられる。45歳以上の失業者と契約を結ぶ場合、奨励金として、3年間一律1,300ユーロの減額とする。被雇用者が女性の場合、年1,800ユーロの減額とする。

これらインセンティブを受けるには、会社は当該被雇用者を少なくとも 3年間雇用しなければならない。ただし、懲戒解雇や法的に妥当な解雇の場合は除く。

2) パートタイム契約

パートタイム労働者は時間外労働を行なうことができる。ただし、通常勤務時間、補足時間及び時間外労働時間の合計がパートタイム労働の法定上限を超えてはならない。

3) インターンシップ、定年交代及び休職者補完有期契約の無期契約への転換についての奨励金支給

• 従業員が50人未満の企業において、上記契約から無期契約へ転換を行なった場合、3年間社会保障料が年500ユーロ(女性の場合は700ユーロ)減額される。

C) 企業内での柔軟な雇用を可能にするための対策

1) 職業分類: 従業員と同意するところに従い、職種グループによる分類システムが制定され、これにより、現在の定義よりも広範な定義を可能とし、職務の多様性を容易にすることができる。

2) 転勤: 転勤をする従業員を選択するための客観的条件が制定される。

3) 契約の変更: 定められた客観的条件(経済、構造または組織の状況等。これには直近2四半期の売上高の減少及び現存の損失または将来の損失見込みを含む。)に従い、雇用主は従業員の職務、勤務時間及び業績評価システムを変更することができる。報酬または給与システムの変更といった契約の重要な変更の場合、従業員には雇用契約を終了し「20日×勤続年数」分(ただし、 9ヶ月分を超えない)の給与を補償金として受け取るか、当該契約変更について裁判所に訴えを提起する権利が与えられる。ただし、後者のオプションは、当該契約変更の効力を侵害しない。

4) 構造的、組織的もしくは生産的な要因、または不可抗力により契約の一時停止や勤務時間の削減がなされる場合、従前必要とされていた行政の認可は廃止される。企業は、契約が一時停止された従業員の社会保障料について、最長で240日間、最高 100%の奨励金を受けることができる。ただし、その後少なくとも1年間雇用が継続される場合に限られる。

5) 団体交渉:

o 会社の労使協約は、地域ごとまたは業種ごとの労働協約に優先する。

o 財政的困難な状態にある企業のため、労働協約の免除または不適用が可能になる。同意に達することが困難な場合は、仲裁手続きよるものとする。

o 当事者間で同意に達しない場合、労使協約の無期更新はされない。このことは、現行の労使協約の有効期間終了時に行なう交渉及び当該協約の安定に資するものと考えられる。

D) 労働市場の効率性を有利にし、雇用の二重構造を軽減するための対策

1) 雇用契約の失効

o 客観性のある解雇原因につき、個人ベース(欠勤や構造改革への不適合)、団体ベース(経済、構造または組織状況等。この場合、特に直近の連続する3四半期における売上高の減少、損失の現存または将来の損失見込みを含む。)とも、よく規定されなければならない。この場合の補償金の額は「20日×勤続年数」とする。

o 労働力調整プラン(ERE)について、従前は必要であった行政側からの事前認可を廃止。

2) 無期契約の従業員を不当解雇した場合の補償金額は「33日×勤続年数」とされ、補償金の上限額は24ヶ月分の給与なる。本法律の施行時において有効な契約について、本規定は本勅令法が承認された日以降の雇用期間についてのみ適用される。その場合、最高42ヶ月分の給与を受ける権利は維持される。

3) スペイン給与保証機構(FOGASA)は、従業員25人未満の中小企業が合法的な解雇として雇用契約を終了させた場合のみ保証する。

4) 従業員50人以上を解雇し、かつ倒産手続き中ではない企業は、影響を受けた従業員について少なくとも6ヶ月間の再配分の計画を作成しなければならない。

E) その他の対策

1) 30歳(女性の場合は35歳)までの若年労働者は、自営業を行なうことで失業手当の100%相当額を資本金に組み入れるオプションが与えられる。

2) 国の公的団体が結ぶ商事契約及び会社の役職者との契約の場合、補償金は「7日×勤続年数」を上回らず、最高6ヶ月分の給与とする。

III.-  結論

→ 新しい雇用契約は、従業員の労働とトレーニングを両立させることが可能。着目すべきは、50人未満の企業は、無期雇用契約を締結する際に1年の試用期間を設けることが可能である点。

→ 新規雇用を行なう場合の雇用主の社会保障料の負担軽減と税の優遇措置の適用。

→ 労働協約の合意が容易になることによって、各企業固有の状況に応じた労働規制の適用が可能となる。

→ 勤続年数の長い従業員の不当解雇の問題の解決はされないが、コストの削減はされる。

→ 客観性のある解雇の解雇要因の明確化が行われたが、客観性に欠けるため、会社の意思決定についての訴訟の活用が見込まれる 。

→ 労働力調整プラン(ERE)について行政の事前許可が不要となったので、EREの承認が容易になる。政府が通過させようとしている規則は、既に承認されている勅令法によってカバーされていない部分を補填するものである。いかなる場合においても、EREについての決定は最高裁へ上告できない。

より詳細な情報につきましては、下記までご連絡ください。
エドアルド・ヴィラ : vila@vila.es
大友 美加 : otomo@vila.es

2012年2月14日